佐々木孝 評論集

昇格人事のダブル・スタンダード

※ 1996年、東京純心女子短期大学は改組転換によって四年制大学に生まれ変わった。九割方それまでのスタッフを新体制に組み入れての改組転換なのだから、短大と四大との間にとうぜん連続するものがあるし、またなければならない。しかし実際は、四大になることがなにか格式が上がることであると勘違いしたのか、短大であった過去の痕跡をできるだけ消そうという滑稽かつ悲惨な動きがあった。上層部に特にそれが顕著であった。
※ たとえば短大時代の『紀要』を四大のそれにどう繋げるかということでも愚かな決断がなされた。つまり改組転換の場合、ナンバリングをどうするか、はその大学の全く自由な選択に任されているのに、驚くべき決定がなされたのである。つまり筆者は、30年近い短大時代に出した紀要が10号にも満たないのであるから(確か8号だったか)、四大への移行期(短大と四大が重なる年度)に、編集委員がしっかりと事情説明を明記して、四大の紀要は連続番号を採用すべきと主張した。たとえばそれまでの紀要が30号だとしたら、いや20号でもいいが、いわば成年を迎えていたのであるから、四大になることをいいきっかけとして、新しい番号にするのもいいだろう。しかしまだ年端も行かぬ幼い紀要なのだから、大事に育てるのが筋と主張したのである。そして一度は賛成多数でその案が採決されたのに、その教授会に欠席した一人の教授が、次の教授会で四大になるからにはまったく新しい番号にすべきであると強硬に主張し、前回教授会の決定がいとも簡単にひっくり返ったのである。
※ さて次に報告するのは、そうした一連のすったもんだの狂想曲の一幕である。ご存知のように、大学設立から完成年度まで、人事は文部省の監視のもとにすべて凍結される。つまり昇格はいっさい行なわれない(らしい)。それは仕方ないこととしても、例えば普通だったら講師から助教授、助教授から教授に昇格するはずの人にとって、昇格凍結が解けることは誰しも心待ちにいていたことである。ところが純心では、完成年度明けの昇格人事の候補に上がったのは、経営者側の修道会に属する二人の修道女だけだったのだ。それだけだったら、教職員全体の士気を一気に下げる愚かな決定と思いながらも、あえてそれに異を唱えることはなかったかも知れない。しかしその昇格人事を議題にした会議での学長の言葉はさすがに看過することが出来なかった。

以下はその会議後、文書をもって大学経営陣に改めて説明を求めたものだが、いつものとおりいっさいの回答がなされなかった。
 現在、大学は、弱小大学の例に漏れず、少子化の波をまともに食らって、経営の危機に陥っている。だから弱い者いじめをするつもりは毛頭ない。また当時の経営陣の責任を問う気もいっさいない(アホらしいから)。しかしあの愚かな決定をだれかがしっかり記憶し記録しておかなければならないと思う。そういうことが今後あってはならないからである。

「お願い
去る十一月二日の人事に関する教授会席上、学長はU講師 の昇格理由の一つに「シスターであること」を挙げられました。U講師昇格に関してはすでに十分な資格があるので、ことさら「シスターであること」を挙げるのは不適切ではないか、との私の発言に対して、学長は強い調子で、シスター云々は意識的に言ったもので、シスターがいなければこの大学は存続できないこと……、さらには佐々木個人への非難まで加えて激しい口調で反論なさいました。その場は当方からは再反論はしませんでしたが、しかし(失礼ですが)どう考えても学長のあの日のお言葉は不適切ではないかと思います。その理由は
@ 昇格の条件などを規定した文言の中にない基準を公的な場で出すのは、ダブル・スタンダードの存在を公言するようなもので、責任ある立場におられる方の発言としては極めて問題である。 (私はかつて一族経営の大学にいたことがありますが、しかしもしその大学の同種の会議で、昇格理由の一つに「一族に属していること」を挙げたとしたら大間題に発展したでしょう。たとえ一族の者が他と比べてときに有利な処遇を受けたとしても、それはすべて暗黙の了解事項なのです)。
A たとえ法的な意味でダブル・スタンダードにはあたらないとしても、学長のあのご発言の中には、純心に、シスターと一般教職員間に明らかな格差(大学運営上の貢献度に関して)があることを明言したもので、現在のように教職員がそれこそ一丸となって大学発展のために協力すべきときに、きわめて遺憾なご発言である。

私はあの日、 「言葉尻を捕えるようで申し訳ありませんが」と前置きをしましたが、学長はそれに対し、ご自身の発言は決して「言葉尻(無意識の発言)」ではなく、まぎれもなく「本音」であったことを断固として主張なさいました。その意味では実に正直なお方と思います。
しかし私の「本音」を言わせていただけるならば、あのときの私の発言は「揚げ足をとる」ためのものではなく、信じていただけないかも知れませんが、いわば「身内として」静かに発言したつもりなのです。 (事実、会議後、数人の友人から「よく聞き取れなかったが、君はなんて発言したのか」と聞かれました)。
純心がシスターたちの大変なご苦労に負っていることはだれもが認めていることです。しかし「シスター」と「一般人」のあいだに[待遇上の]明らかな格差があってはならないと思います。「一般人」は「シスター」の「雇われ入」でもないし、「お手伝いさん」「臨時の助っ人」でもなく、友情と信頼に結ばれた「パートナー」のはずです。

 大変出すぎたことを申し上げましたが、真意をご理解いただき、公的な場での学長からのご説明をいただければ幸いです。
なお、内容が内容なので、理事長にも同文のご報告をさせていただくことにしました。

十一月四日                 佐々木 孝

追記  昇格人事については、完成年度まで事実上四年間の凍結があったのですから、 カンフル剤的効果の意味もかねて、同僚の一人として、できるだけ多くの該当者の昇格を考えていただければ、と願っております。

                             学長 様
理事長様

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